UFOロボグレンダイザー ファンフィクション

Holy Night♪』


 ベガ星連合軍との小競り合いが漸く収まり、研究所に帰還した大介だった。
「ご苦労だったな、大介」
「いえ……じゃぁ牧場の仕事が有りますので戻ります」
 大介は少し微笑んだ。
「もうかね? 少し休んで行きなさい。ここの所、戦い尽くめだっただろう?」
「大丈夫です。最近出撃ばかりですから、なるべく迷惑掛けないようにしないと」
 大介はそう言って所長室を出ていった。
「ふぅ……そんなに無理して働かなくてもいいのにな……」
 宇門は立ち上がり窓辺に近づくと、研究所を出てバギーに乗り込む大介が見えた。
 大介はバギーに乗り込んだが、暫く体をシートに預けて頭を凭れ掛けていた。だが頭を振りながら体を起こすとエンジンを掛けて走り去った。
「やっぱり彼奴、かなり疲れてるようだな」
 突然始まったベガ星連合軍との戦いに、否応なしに出撃を要請される。漸く平穏な日々を取り戻したところだったのに……


「あれ? 大介さん、此処じゃないのかな……」
 突然入ってきた甲児は声を上げた。
「あぁ、甲児君もご苦労だったな。大介は今し方、牧場へ戻ったよ」
「え? もう?」
「暫く休めと言ったんだがな……」
「団兵衛さん達には大介さんの事、内緒だからなぁ……きっとまた怒られるんだろうな」
 甲児は溜息を吐いた。
「大介自身は戦いたく無いのだよ。だが仕方がない。今地球を守れるのは大介以外にいないのだからね……」
「だからかな……」
「え?」
「最近の大介さん、どうも様子が変なんだ。落ち込んでると言うか……言葉数も少なくなってきたし」
「そうか……彼奴は何も言わないからね。もしかしたら戦闘続きで、フリード星が襲われたときの事を思い出しているのかもしれんな……」
「それは有るかも知れないです。今日、ベガ獣を倒した後、大介さん、暫く焼き払われた街を呆然と見つめてましたから」
「そうか……やはりな」
 宇門はデスクに戻ってパイプに火を点けた。
「牧場の仕事をすることで気を紛らわしてると言う事も有るのかもしれんな……だから無理してでも仕事に行くのだろうな」
「でもそれって吐き出さないと体と心に溜まる一方ですよ」
「何とかしてやりたいが、彼奴は自分を出さないからねぇ」
「明日はクリスマスイブで世間はみんな浮かれて騒いでるってのに、本当にみんなの幸せを守ってる人が暗くなってるようじゃ堪らないですよ」
「そうか、明日はクリスマスイブか」
「あ〜あ、所長もそう言うことは無関心なんだからな」
「あ、いやすまん……」
「ようし! じゃぁ俺がいっちょ大介さんを励ましてやるか!」
「え?」
「所長、協力お願いしますよ!」
 甲児は宇門に計画を囁いた。
「うむ。解った、君に一任しよう」
「じゃぁさ、手の空いてる所員の人達にも手伝って貰おう」
「解った。私も色々と手配しよう」
 宜しく、と甲児は片手をあげて所長室を出ていった。


 次の日、牧場にて……
「大介さん、お父さんに怒られたからって、そんなに無理して働かなくてもいいのに……」
 ひかるは、休み無く一生懸命働いている大介に申し訳なくて声を掛けた。
「いや、勝手したのは僕の方だから……」
 大介は話をしている間も手を休めることはない。ひかるはそんな大介を見て溜息を吐いていた。
「あっ、今日のクリスマスパーティー、絶対来てよね!」
 ひかるは瞳を輝かせた。
「クリスマス? そっか、忘れてたな……」
「やだ、一年でこれ程大事なイベントは無いのよ! 絶対来てよね」
「……ごめん。だったら余計行けないな……研究所の所員の皆さんも早く帰りたいだろうし、僕が留守番しないと……」
「え〜?」
「悪いけど、今日は早めに置かせて貰うよ」
「そんなぁ〜」
 ひかるはガックリと肩を落とした。


 夕刻、大介は慌てて研究所に戻った。
「すみません、遅くなって。今日は僕が留守番しますから……」
 大介は林に声を掛けた。
「あ、大丈夫ですよ、大介さん。今日は僕が居残りですから」
「林さんはデートが有るんじゃないんですか?」
「いや、昨日の休みに会ってきたから……彼女も仕事が有るしね」
「そうなんですか……では僕も一緒に付き合います」
 大介はそう言ってレーダーの数値を確認した。
「大介さん、いいですよ。コンピューターが判断してくれるし、僕一人で充分ですよ。何か有れば直ぐに呼びますから」
「では僕は他の部署の方達の様子を見てきます」
 大介はそう言って観測室を出た。
「大介さんも生真面目だな……」
 林はそう言って微笑んだ。


 小一時間ほどして、宇門がやって来た。
「大介が此処にやって来たかね?」
「あぁ、少し前に来られました。各部署の様子を見てくるって出ていきましたけど……」
「彼奴何をやってるんだ? クリスマスイブだと言うのに……」
「ぶっ! 所長がクリスマスイブなんて言葉を言うとは思いませんでしたよ……だから大介さん、自分が留守番するからってわざわざやってきたんですよ」
「やっぱり……ひかるさんが、大介が来ないってお冠だったからねぇ」
「ふふふ、ひかるさんも中々思いが届かない見たいですね」
「仕方がない、わしが引っ張っていくか……」
「え? 何処へ?」
「いや、実はな……」
 宇門は小声で林に説明した。
「へぇ……そりゃいい。大介さん喜びますよ、きっと……」
「甲児君に準備はいいか、確認してみよう……」
 宇門は甲児に電話を入れた。


 宇門は渋る大介の腕を無理矢理引っ張り、ジープに乗せた。
「父さん、残ってる方に申し訳ないですよ……」
「いや、お前は休養が必要だ。今日はゆっくり休みなさい!」
 宇門はジープのエンジンを掛けた。
 大介は仕方なく大人しく従った。
 ほんの数分走ると大介は声を上げた。
「あっ!」
 その声に宇門は、ジープを止めた。



 いつもは静かに佇んでいる宇門邸が、イルミネーションを点灯させて眩しいくらいに輝いていた。
「……」
 大介は言葉も出なかった。
 宇門は微笑みながら暫く大介の横顔を眺めていた。
「―――凄い……綺麗だ」
 大介は漸く言葉を発した。
「甲児君がね、お前を元気付けようと頑張ったのだよ」
「え? 僕のため?」
 大介は驚いて宇門に向き直った。
「最近のお前はどうも落ち込んでいる様だったからね……甲児君も心配してくれているんだよ」
「あ……」
 大介は俯いた。
「すみません、気を付けているつもりだったんですが……」
「謝る事じゃないだろう……お前はお前なりに悩む事が有るのは当然だ。否応なしに戦いに巻き込まれてしまったのだからね」
「父さん……」
 大介はもう一度夜空に輝く宇門邸を見つめる。やがて大介は、そっと頬を伝う涙を拭った。
 宇門はそんな大介の肩に手をやり静かに微笑んだ。
「―――有り難うございました」
 大介ははにかみながら宇門に頭を下げていた。


 宇門邸の玄関に到着すると、大介はまた声を上げた。
「うわっ、サンタクロースがあんなところに」
 大介は笑っていた。
 エンジンの音を聞いた甲児が飛び出てきた。
「お帰り! 大介さん」
「やぁ、甲児君。これ凄いね……君がやってくれたんだって?」
 大介は満面の笑顔で甲児に声を掛けた。
「ははは! 結構苦労したぜぇ。整備班の人達も手伝ってくれたけどな」
「え? そうなんだ……」 
「あのサンタは、TFOで運んだんだぜ。上手いもんだろ。ははは!」
「うん。凄い……僕、感動した」
 大介のその言葉に甲児は安堵していた。
「甲児君の格好も凄いけどね……ふふふ」
「あ……やべぇ 料理の途中だった!」
 ピンクのフリルのエプロンを付けた甲児は慌てて家の中に入っていった。
 大介と宇門は笑い合っていた。


「所長、ワインの栓、抜いてくださいよ」
「あぁ、解った」
「ほら、大介さんはグラス!」
「はいはい……」
 甲児は指図しながらケーキの蝋燭に火を灯した。
「じゃぁ電気消すよ」
 甲児はそう言うと灯りを消した。
その途端、外壁に張り巡らされたイルミネーションの瞬きが部屋の中まで差し込んでくる。蝋燭の明かりと相まって、それは優しいメロディーを奏でているようだった。
「じゃ……」
 宇門はワイングラスを持ち上げた。大介も甲児もそれに従う。
三人はワインを口に運んだ。
「大介さん、このサンタの前で手を叩いてくれよ」
「え? クリスマスも柏手を打つの?」
「ぶっ! あはは! じゃなくってさぁ……」
 大介は言われるままに滑稽な格好をしたサンタクロースの人形の前で手を叩いた。
 突然、サンタクロースは踊り出し、曲が流れた。
「うわっ! 面白い!」
 サンタクロースは少し酔っぱらっているのか赤い頬で、大きなお腹に腰をくねらせて曲を奏でた。
 大介は暫しサンタクロースを笑いながら眺め、何度も手を叩いていた。
 その様子を眺めながら甲児と宇門は微笑んだ。


 酒の勢いも手伝って、三人の会話は弾む。
「甲児君、君は未成年なんだからね、少しは控えなさい!」
「え〜? 所長、そんな堅いこと言わないで欲しいな……折角のクリスマスなのに」
「甲児君は今日、デートじゃなかったのかい?」
「デートしてるだろ。二人と……」
「ぶっ! わしもその相手になっているのかね?」
「あはは! 女なんて面倒くさいの相手してられないって!」
「甲児君、それは相手が居ない言い訳なのではないかね?」
「もう! ほっといて下さいよ!」
 甲児は膨れっ面でワインを口に含んだ。
 一同は大笑いしていた。


 三人の楽しい会話は続いた。
 大介も余程楽しいのか、それともアルコールの所為なのか言葉が途切れることが無かった。
「ん?」
 宇門が手洗いから戻ると、大介はソファで横になって眠っていた。
「やっぱり疲れてたんだろうな……あれくらいのアルコールで眠ってしまうとは……」
「あれ? 大介さん、寝ちゃったのか?」
 酔いを醒ますためにベランダに出ていた甲児が中に入って声を掛けた。
「あぁ、かなり疲労が溜まってただろうからね……」
 宇門は、ブランケットを持ってきた。
「暫く此処で寝かせてやろう……」
 宇門は大介の体にそっとブランケットを被せた。
 大介は余程熟睡しているのだろう。身動ぎもしなかった。
「甲児君、有り難う……今日の大介はとても楽しそうだったよ。少しは気が晴れただろう……」
「止めてくださいよ、所長! 俺、照れるぜ。ははは」
 甲児は頭を掻きながら笑った。
「本当は戦わせたくは無いんだがな……」
 宇門は眠る大介の顔を眺めながら溜息を吐いていた。
「所長……」
「まだまだ戦いは激しくなるだろう……甲児君、大介を支えてやってくれないか?」
「え? 俺? 所長、それは反対ですよ。俺が支えて貰ってるんだから」
「いや……大介は君が来てから随分明るくなったよ……」
「え〜? そうかな……」
「以前は殆ど笑わなかったし、何時も遠慮がちに喋ってたよ……言葉が通じにくいと言う事も有っただろうが、それでも感情を押さえ込んでいた。わしはそれが不憫でね……今日の大介を見ていると、本当に楽しそうだったよ。よかったな、大介……いい仲間が出来て」
 宇門は大介の顔を眺め穏やかな笑みを湛えていた。


 後片づけが終わり、甲児は宿舎に戻って行ったが、大介はまだ眠っていた。
 余程疲れていたのだろう、何度揺すり起こしても多少の返事はするものの大介は眠り続けた。
「さて、どうするかな……こんなでかい子供を……」
 宇門はソファで溜息を吐いていた。
 突然、大介が眠りながらも僅かに微笑んだ。
 きっと楽しい夢を見ているのだろう。宇門は起こすに偲びなかった。
 まだ研究所で療養中だった頃は、魘されてばかりだった。あの頃の事を思えば、随分大介も落ち着いて来たと思えた。
 だが、戦いはまた大介を暗闇の中に引きずり込むだろう。耐え切れるのだろうか……宇門は顔を曇らせた。
 少しでも、ほんの僅かでも幸せを感じているのなら、そのままで居させてやりたい……宇門の親心だった。
 宇門は暖炉に薪を足し、窓の外の景色を眺めた。
「ほぉ……冷えると思ったら雪か……」
 宇門は部屋の灯りを消した。
「何十年ぶりだろうか……大介が居なかったら、こうやってクリスマスを楽しむことも無かっただろうな……」
 宇門は、イルミネーションに照らされながらふわりと落ちてくる雪を眺めていた。
「わたしにとっては、お前が最高の贈り物なのかも知れないな……」
 宇門は振り返り大介の顔を眺めた。
「Merry Crhistmas……大介」
 宇門は呟き、そしてまた窓の景色を眺めた。
 時よ、せめて今夜だけでもゆっくりと流れて欲しい……
 宇門は夜空に向かって祈りを込めた。


  fin...




  しー! 静かにしてね。
  彼の眠りを妨げないで・・・
  女人禁制(笑)
  
  From 利 清蘭(Ree) 

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ばな〜っす