―――1―――

「宇門博士、よろしいでしょうか。気になることが起きているのですが」

「なにかね。緊急のことかね。」
宇門は疲れを覚えながら、仮眠をとっていたラウンジのソファから起き上がった。
もう年である。昔のようにはいかない。
体力が要求される仕事でもあるので、普段から鍛えてはいる。
同年代の男達とは比較にならないほどに元気である。
またフェタBという、これは老化の速度をかなり遅らせることができるという、夢の薬が開発されていた。
とても高価なのと、原料が非常に手に入りにくいのとで、政府に選ばれた人々にしか使うことが許されなかったが、宇門博士の頭脳は地球にとって必要不可欠のものであると判断されていたため、その薬を使うように渡されていた。

そのためもあってか、見た目はほとんど年齢を感じさせない。
しかし激務である。
若い者達に混じっての生活は、さすがにきつくなってきていた。
どうしてもある程度の休息が必要である。


所員は申し訳なさそうにしたが、すぐにそれどころではないと思ったのか改めて声をかける。
「太陽系のすぐそばで、飛行物体がこちらに飛んでくるのを確認したのですが…」
「追尾していたのですが侵入の直前で消えてしまいました」
「消えたのか…?」
「はい… たぶん太陽系に潜入したかと思われますが、どこに潜入したかはつかめません」

宇門は大急ぎで身支度して、所員の後についていった。

「博士、これは敵の新たな技術ですかね。
いままで、太陽系への侵入は100%補足できていると思っていたのですが…」

「うむ、敵もいろいろと開発しているだろうからな」

不安を押し隠しながら、つとめて冷静にいう。

地球は新たな侵略を受けていた。
地球はまわりにこれといった似た星をもたない辺境の星である。
しかもわかってみると太陽系のまわりは過酷な環境であった。
地球はいわば、砂漠のオアシスである。
それも、みどり滴るオアシスである。
なかなか銀河系では発見されなかっのだが、一旦知られてしまってからは、元にもどることはかなわなかったのだ。

近くに頼れる他の星もなく、そのうえ他の星に狙われやすいときている。

それでも、近くの星となんとか友好関係を築き、ほそぼそとやってきたが、狙われて助けてくれるほどに親しいところはなかった。
自力での防衛が必須である。
防衛の要は、より早くより正確に、侵入してくる外敵を捕捉できるかどうか、にかかっている。

その中核が地球防衛宇宙機構。
SCとよばれるところである。
宇門はその中心人物のひとりであった。
大概は火星にある基地にいるが、今は久しぶりに地球の中核拠点のひとつである月基地にいる。

那須にある家にはほとんど帰っていない。
もっとも帰ったところで一緒に暮らす誰がいるわけでもないので、ひたすらのんびりするだけで、すぐ仕事にもどってきてしまうのだが…

新たな脅威かとも思われ、総力をつくして不審な船の影をさぐったが、どこにもその痕跡すら見つけることはできなかった。
が、なにか攻撃をしかけてくるようでもない。

不安を覚えながら数日がたったある日、研究用ラボで仕事をしていると、連絡用の映像が明示され、通信担当の所員の顔が映った。
「宇門博士。お宅から高速通信が入っています」


「うちから? 」

自宅にはだれもいないはずである。
通いで家の管理を頼んでいる婦人はいるが、なにかあったにしても、ここに直接連絡する方法は教えていない。

「だれだね。確かに私の自宅からかね」
「確かです。肉親の方の連絡方法を使っての、ご自宅からの連絡です」


どきり、と心臓が鼓動を打った。
肉親?その言葉が宇門の心をざわめかせる。一人だけいる。
連絡できるはずの肉親が。
彼の息子が…
しかし、彼は…

「博士のオフィスのほうに回線をまわしたほうがよろしいですか?」

「そうだね。そうしてくれ。ところで… だれからの連絡かわかっているのかい」

「映像での連絡ではなく音声のみですが… お孫さんだとおっっしゃってますが」


「孫?!」声が一瞬うわずった。

「お孫さんがいらっしゃるとは、存知ませんでした。きれいな声のお嬢様ですね 」

「お嬢様?!」
むせそうだった。つぎつぎにとんでもない言葉をきかされて、宇門は絶句してしまった。


「その… お心当たりはおありではないのですか…」
所員の声は遠慮がちになった。
それはそうだろう。
仕事の鬼といわれる宇門博士に家族から連絡が入るというだけで、十分センセーションナルである。
家族がいるというということも家族から連絡が入るということも、ついぞ聞いたことが無い。
友人や知人はたくさんいて、仕事仲間もたくさんいる。顔は広い。
というより、最重要人物である。

宇宙開発や宇宙防衛に関しての第一人者であり、またメカロボットの開発にも携わり(正確にはその補助ブースターなどの開発であるが)
若者たちには、師として、あるいは冷静で頼りになる上司として尊敬され慕われている。
兜甲児あたりとは、父とも思っているだろうといわれるほどのつきあいである。
しかし宇門の肉親についてのうわさだけは皆無だったのだ。

個人の情報は、厳密には機密事項である。
どこで敵に利用されるかわからない。
(実際にそれで事件が起きたりしているので、家族の情報に関しては、不必要に外にはもらさないという不文律があった)
特に重要人物になればなるほど、あまり個人の情報はもらされなかった。
だからたいがい口コミあたりが、おもな情報源となる。

宇門博士については、親類はほとんどいないということだけはわかっていた。
奥さんももったことがないということだったから子供がいるのかという話にはならない。
天涯孤独なのではないかという憶測がもっぱらであった。
ただ、ときたま誰かが「あれっ、子供さんがいらっしゃらなかったですかね」
という微妙な発言をしたりする。
しかし、確信はないようで、それについて突っ込んで聞く人間はいなかった。
宇門も何もいわなかった。

それが急に孫の出現である。
所員が驚くのも無理は無い。

「ええっと… 回線ををオフィスにまわしてくれ。それと念のために防御セキュリティを念入りにかけといてくれ。
それと…… 」いいよどむ。

聞かないほうがいい。これ以上、所員を不審に思わせる必要はない。
だが、がまんができなかった。
さりげない口調をよそをって訊ねる。

「そのお嬢さんは、何という名前を名乗ったかね」

「………」所員は明らかに驚いたようである。
だがすぐに、気をとりなおしたようである。

「お嬢様はセシリア・宇門・フリードとおっしゃってました」殊更事務的な口調でいう。

「セシリア・宇門・フリード………」
のどがつまったような声がでた。
瞬時に愛する息子の顔がうかんだ。
涙が出そうになったのだが、ぐっとこらえる。

「そうか… わかった。ありがとう」

「あの、お孫さん…でよろしいのでしょうか? その。記録の都合がありますから…」
相手はおそるおそる、しかし好奇心に勝てないといった様子できいてきた。

「ああ…いいんだ。 確かに… わたしの孫だよ」なにが記録だ、と思いながらも答える。

「そうでしたか。ではよい夜をお過ごしください。そちらに回線をまわします」
これで明日一番のニュースは決まった。


宇門は急いでオフィスに向かった。
防御セキュリティがONになっているのを確かめた。
いすにすわりスイッチに手をふれる。
回線がつながっていることをつげるランプが点灯した。
画像はでないだろうが、一応受像機もセットした。
直通である。
だれも聞く人間はいない。

宇門は息を吸い込んだ。
「もしもし。宇門源蔵だが… 」
言って相手の声に息をこらす。

「もしもし。おじいさまですか?」
さわやかな美しい声がひびいた。
そこには確かにききなれた息子の声の響きがあるような気がした。
「私、セシリアです。始めまして。」

「セシリア…」のどが詰まった。声が震える。しかし、気を取り直して言葉を続ける。
「始めまして。よく来てくれたね。うれしいよ。」

「ふふっ、最初は他人行儀なのはしかたがないですね。
お父さまからおじいさまのことは何度も聞いています。
長らく連絡もできなくてごめんなさい。
お父さまもとても気にしていたのですけど、いろいろな事情で連絡がとれなくて。
お父さまはおじいさまがお元気でいらっしゃるかどうかとても気にしていたわ。
それで私が此方に来たいといった時どうにか許してくださったの。
おじいさまがお元気そうでよかった」

フリード第一王女にして第三王位継承者、セシリア・フリードと、宇門博士の会話は続く。


―――2―――

宇門博士とセシリアの会話は続く。


「おじいさま、こちらには帰ってこられないの? お会いしたいわ。
お父様からのメッセージも持ってきてあるの。いろいろお話もしたいし… 」

セシリア… 
宇門は何も写っていない受像機を、一心に見つめていた。

「ああ、私もだよ。すぐにでも会って顔がみたいが…」
切ない気持ちをおさえ、勤めて静かにいう。

「ふふっ、おじいさまったら… 」
回線の向こう側から、明るい声がひびいてきた。

「私ってお父さま似なの。 会ってびっくりなさらないでね。 よく似てるっていわれているから…
…本当はお母さまみたいなほうが、よかったんだけど…  妹はお母さまにそっくりなのよ」


「そうか…… よく、似ているのか…  妹がいるのかい? 」


「ええ、2人姉妹よ。私はお父さまに、妹はお母さまにそっくりだっていわれているの。
これが写るといいんだけど… お父さまにきいてきた通信方法だと、画像が写らないのね」

「ああ、大介に教えてあったのは、古い方法だからね。
新しい方法だと画像がでるのだが、本人の認証が必要でね。手続きしなくてはいけないんだよ」

「そうか…  お父さま、ここでは宇門大介なのね。 何だか新鮮」 
くすっ、とセシリアは笑った。

「おじいさま、ずっと連絡できなくてごめんなさいね。心配なさっていたでしょう? 」

「ああ、いや…
 大介と最後に会ったときに、グレンダイザーの通っていた航路に障害が起こっていて、もう使えなくなると聞いていたからね。
覚悟はしていたよ」

「さみしくはなかった?…   お父さま、すごく心配してた… 」

「そうだね。いや、まわりがにぎやかだったし、仕事が忙しかったからね。
甲児くんもいてくれたしね。 大丈夫だったよ」


だが………   と宇門は思い出していた。

普段は多忙を極める仕事やつきあいに忙殺され、さみしいなどと感じる暇もなかったのだが、ふとした暇ができる時、てもちぶさたになる瞬間、まわりが妙に静まりかえり、なぜかたまらないさみしさが込み上げてきていたことを。

そういう時は無性に大介の写真が見たかったのだが、見ると何かこらえきれなくなるものが蓄積されそうで、無理やり見ることを控えてきたことを。

就寝するときにだけ写真を見ることを自分に許す習慣は、随分と前からのものだった。

あの子は元気でやっているのだろうか。 最後に会ったときも苦労していたが、幸せになれたのだろうか。

もう二度とは会えないのだろうと思っていた。

最後に大介と会った時、もう会えなくなるかも連絡できなくなくなるかも知れない、と苦しそうにつげた彼の姿は、宇門に事態の容易ならぬこと、二度と会うことも連絡することもできないのだろうと確信させるのに十分だったのだ。

それからまもなくだった。フリードからの頼りが完全に途絶えてしまったのは………
「そうだな… 」と宇門は言った。

「今基地を離れることは難しかしいな。こっちにはいつまでいられるのかい? 」
言って少し胸が痛んだ。
まだ会ってもいないのに、はやくも別れのことを気にしている自分の姿に自嘲した。

「それがね」 セシリアは少しいいよどんだ。

「かなり長いことこっちにいる予定なのよ。
その間おじいさまの世話になろうかと思って…   だめ? 」

「だめだなど」  宇門は不意に胸が暖かくなるのを感じていた。
「いつまでも好きなだけいてくれていいんだよ。その間は、私のところに来ておくといい」

「でも、お仕事の邪魔じゃないの? 
それに、そこは家族の者とか行ってはいけないのではない?」

「まあ、そうだね。でも例外はあるからね。何とかしてみよう。そういえばセシリアは誰ときたのかい? 」

「ええとね、実は、私1人できてるのよ…… 」 

この言葉は宇門を驚かせた。
「えっ………  1人で来たのか。無茶じゃないのかい? フリードで何かおこったのか? 」

少しせき込んで聞く言葉に、軽やかな返事が帰ってきた。

「ううん、フリードは大丈夫よ。お父さまもマリアおばさまも元気よ。
ただね…… 」  

「こっちに私が来たのは、おじいさまに会いたいというのももちろんなのだけど、他にも理由があるの。
くわしく説明すると少し長くなるのよ。 
今、ここで話していい? 誰かに聞かれたりすることはないわよね? 」


「そうだな」  宇門は少し考えた。
「いや、まずいな。ここでは高速通信は、私用ではあまり長いことは話せない決まりなんだよ。
話せないことはないんだが、それには許可が必要なんだ」

「そうなの? わかったわ。では、この家で待っていればいい?」

「こちらにこられるように、すぐに手配しよう。だが、女の子が1人ではあぶないな… 
そこは私の家と知られているから、少し心配でね。
シールドをかけて警備は万全にしてあるつもりだが、誰かそちらにむかわせよう」

「大丈夫よ。乗ってきた船で生活しているから。この家の地下の格納庫に、なんとか収まったわ。
だめだったら、研究所の格納庫にいれるつもりだったの」

「私の船、攻撃力はあまりたいしたことないんだけど、防御力や警備力だけはすごいの。
そうねえ、本当は外で寝泊りしたいのだけど、さすがにそれはするなって釘さされてるし…
でも外に出ても、自動システムで広く警備と警護もしてくれるから心配はないのよ」

「そうか。だが周辺の警備は強化してくれるよう、頼んでおくからね」

「きみの船でこちらに来るとなると騒ぎになりそうだな。
私がそちらに行けると一番よいのだが、今ここを離れるわけには。 
ああ、そうか…… 」 

宇門は心づいて訊ねた。
それまではセシリアとの会話に心を捉われていて、彼には珍しく気づかなかったのだ。 
「もしかして5日前に太陽系に侵入してきたのはきみかい? 」

「ああ…  そうよ、それ私なの。 ごめんなさい。 さわがせてしまった?
無断侵入なのだけど、追跡されるわけにはいかないと思ったものだから。
那須のお家に落ち着いて、こっちも無断侵入だけどね。
地球に慣れるようにいろいろ準備してたの。 
ついでにいろいろ観光しちゃった ふふっ」

「お父さまの住んでたところって、とってもいいところね。
よくギターを弾いてた、お気に入りの場所があるって教えてもらってたんだけど、あの白樺の木のところね。
とても星がきれいに見えたんだって聞いていたから、私も一度そこで星を見上げてみたかったの… 」

「でも、お父さま、牧場で働いてたっていってたけど、牧場はなかったわ」

「ああ、団兵衛さんたちだね。
牧場もだんだん牛や馬の数がふえてね。手狭になってしまったんだよ。
今はもっと広いところを北海道に借りて、そこで吾郎君がお父さんの後をついでるよ」

「ふ〜〜〜ん、残念だわ。お父さまもおば様も馬に乗るのがすごく楽しかったっておっしゃってたから、私も楽しみにしていたんだけどな…… 」

「よければ今度北海道につれていくよ」

「本当? 楽しみだわ。吾郎さんやひかるさんや団兵衛おじさまにも会ってみたいわ。
マックスやシルバーはまだ元気でいるの? マックスってお父さまが弟みたいにかわいがってた馬なんでしょう? 」

「残念ながら2頭とも亡くなってしまったよ。天寿でね。
よく長生きしていたんだが、馬は寿命が人間のようには長くないんだよ。だが、2頭の子や孫なら今もたくさん牧場にいるよ」

「まあ… そうなの… 残念だわ… でも長生きしてくれたのなら、それでよしとしなくっちゃ…
マックスとシルバーの子供達ってきっとかわいいんでしょうね」

「ああ、かわいい子馬もたくさんいるよ…」


宇門はいつまでもセシリアの声に浸っていたかったのだが、我慢することにした。


―――3―――

宇門は地球に向かうことにした。
当面の脅威の原因は判明した。
ろくろく休暇もとらず働き続けてきたので、強く休暇を願い出れば許されるはずだった。

宇門は、機構の中ではある程度独立した強い立場を保っていたが、組織である以上限度はある。
彼が許可をとらねばならないのは、機構の最高責任者である総司令官のみであった。

SC総司令官は、実に強大な権限を持っていた。  
これは地球防衛の成り立ちに起因する。

以前は各国の思惑もあり合議制であったのだが、合議だとどうしても決定までに数多くプロセスを経なくてはならなかった。
それが原因で決定が遅れ、地球は何度か異星人の侵入を許し、存亡の瀬戸際にまで立たされたことがあった。
何とか回避はできたものの、その恐怖は強く地球人の心に残ったのだった。

過酷な環境ではボトムアップは遅れをとりやすい。
リスクがあろうともトップダウンが必要なことを地球人は学んだのだった。
特に地球防衛の現場では、その時々で果敢な決断が必要とされることが多かった。

機構には、半ば地球の生命線が託されていただけに、総司令官の人選は厳正を極めていた。
現在総司令官として立っているのは、苛烈な決断力と、そして柔軟な頭脳を持った人物だった。
名前を、アーサー=バルディナスという。

宇門は彼とは旧知の仲であった。
2人は互いに、年齢の違い、立場の違いを超えて、相手に対する尊敬の念を抱いていた。

彼は、表面の迫力に満ちた印象とは反対に非常に思慮深い人物で、宇門は深い信頼を置いていた。
大介のことも彼にだけは話してある。
フリード星人というだけでなく、そのフリードでの立場まで含めて知っているのは、関係者以外では彼だけだった。


もっとも、随分と地球人も他の星の人間達とのつきあいになれてきてはいた。
地球人と非常に異なった進化を遂げた星もあるが、進化の到達点は案外に同じ形になるらしく、主流は地球人と同じ外観を持つ、ヒューマノイド型の人間達が占めていた。
地球に住み着いて溶け込んでいる異星人も結構いる。
ただし身元の調査は厳しかった。

大介の場合はそれ以前に地球に来ていたので、地球人としての、宇門源蔵の息子としての戸籍がある。
しかし、セシリアを呼び寄せるとなると、特別な配慮がどうしても必要となってくるであろう。
そこらあたりを、彼に頼んでみるつもりであった。

通常では非常に難しいであろうが、宇門の業績とその特殊な立場とでなんとかならないかと思ったのだった。
時間はかかるかもしれないが、手順を踏んで粘り強く交渉するつもりだった。

だが、とりあえずは事情を話して、地球にむかう許可をもらわなければならない。
急いで彼に連絡がとれるように要請した。
バルディナス総司令は機構の最大の拠点である火星基地にいた。

待っていると、ほどなく映像が到達したことを示すマークが点灯した。

映像は、1人の、長年の激務に耐え、花崗岩のような印象を持つに至った男の姿を写しだしていた。
並々ならぬ意志を感じさせる口元は固く結ばれており、不機嫌そうにみえたが、これは彼のごく通常の顔だった。

「やあ… 宇門博士。
久しぶりだな。元気か? きみから私用の呼び出しがあるとは、珍しい。
この前潜入してきた不審船についてではないのだな? 」

宇門は手短に、セシリアと不審船についての一件を話した。
そして地球に休暇を取ってしばらく居たいこと、できればセシリアを自分のところに連れてきたいことを話した。

その話を聞いて彼は少し考え込むようだった。

宇門の顔を見、そうして言う。
「話はよくわかった。そのお嬢さんをこちらにつれてきたいのだな… 」

一呼吸おいて、今度は少し強い口調で続ける。

「だがそのお嬢さんは間違いなくきみの孫だといえるのか。
だれかが名前を語っているという可能性はないのだろうか。
疑っているようで悪いがね。きみは一度も彼女にあったことはないのだろう」

そうして宇門の顔を静かに見据えた。


「ああ、それは大丈夫だ。間違いはないよ」 
宇門はそう答えた。
 
しかし、彼女に対する確信はあるものの、常の冷静な自分であったとは言いがたい。
もう一度よく記憶を精査してみる必要があった。
こみ上げてくるいとしさを抑え、冷徹な目で分析を開始する。
しばらく時間がたった。

そうして、彼は目をあげた。まっすぐに総司令の目を見る。

「彼女は……   セシリアは、大介の子に間違いはないよ。
あの子といろいろと話をした。よく知っていたよ。
だがそれをおいても… たとえ話を聞かなくとも… 顔や姿が似ていなくとも…  

私にはわかったと思う。
大介と何か深いところがとてもよく似ている感じがするのだよ」

宇門は、しばし沈黙した。

言葉にすると、自分がどれほどそのことに驚きゆさぶられ、そして切ないほどにそれを欲しているのかが、わかってしまったのだ。


総司令はそうした宇門の姿を、黙って見つめていた。

しばらくして彼は口を開いた。

「わかった。間違いはないようだ。この件に関しては、私が全責任をもとう。

きみときみの息子さんには地球を救ってもらった。
それを知っている者は、関係者と地球でも中枢にいるごく少数だが、決して忘れてはならないことだ。
全面的に便宜をはからせてもらうよ」

きっぱりとした口調に宇門の方が驚いた。
まさかそこまで思い切ったことを言ってくれるとは、思ってもいなかったのだ。

「いや、そこまでしてもらってはきみにすまない。とりあえず私が帰れるように手配してくれるだけでいいのだ。
後のことはそれから考えるよ」

「いや… 」と彼は静かにさえぎった。

「どちらにしても、宇門博士、あなたの尽力がなかったら今の地球はありえなかったのだ。 それに… 」 
彼は少し間をおいた。

「それに、今の地球の防衛も、情けないがきみに抜けられるのは非常に困るのだ。
通常のレベルダウンでは、すまされなくなるだろう。
表ざたにはできないが、それはこの私が一番よく知っている。
引退するといわれたらどうにもできんし、その莫大なリスクに比べればこのくらいはなんともない。

孫だろうが、イナゴだろうがかまわんよ。そのお嬢さんがこちらで暮らせるよう便宜をはかろう」

一応プリンセスのはずなんだが…… イナゴはないだろう……
と宇門は理に合わない不満を覚えながらも、ありがたくその言葉を受け取ることにした。

「すまない…  私にそこまでの力があるとは思えないが、できるだけのことはさせてもらうつもりだ」
宇門は頭を下げた。
「いや…… 」 彼は、何かを思い出すように少し宙に目を浮かせた。

「私はヴェガが襲って来た時、父と母を襲撃で殺されていてね」
少し低いトーンで、彼はゆっくりと話しはじめた。


「妻もいたのだがね…  守りきれる自信がなかった…

今でも私は覚えているよ。あの恐怖に満ちた日々を。  
のがれられないものだと、覚悟していたよ。
ヴェガの襲撃が、日本に集中し始めるまではな……

誰が戦ってくれているのだろうといつも思っていた」

「報道は規制されていたからあまり情報は伝わってこなかったがね。
だがグレンダイザーの名だけは知っていたよ。その名だけが頼りだった…

しかし操縦者のことはほとんど何も伝えられていなかったからね。
日本に基地があるらしいということはわかっていたから、日本人だろうとは思っていたのだがね」

「残念ながら妻は病気で亡くなってしまったが、平和な世界の中で安らかに息をひきとることができたよ」

そうして、彼は珍しくにっこりした。

「まかせておいてくれ。
きみときみの息子さんの名において、そのお嬢さんの世話は、最大限の地球の誠意をもってあたらせてもらおう」


宇門は、しばらく目をつむっていた。


―――4―――

ルナ・アストロ・スペイザーは、一路地球を目指していた。
なつかしい宇宙科学研究所が、緑の沃野の中に見えてきた。
研究所はもはや稼動してはいなかったが、その基本的な性能だけはよく維持されていた。

ずぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜ん
腹にこたえる音と共に、ルナ・アストロ・スペイザーは、その巨体を研究所のポートによこたえた。

そこから宇門邸まではすぐなのだが、宇門は1人の熟練パイロットとともに一旦小型艇に乗り換えた。
機体はすぐに浮上し、そしてほどなく宇門邸が見えてきた。
まだ遠くの方にみえる庭に、誰かがたたずんでいる姿が目に飛び込んできた。
「あれだ…………… 」
   

「着陸します」静かに機は着陸態勢を取り、降りていく。

視界に、機からかなり離れてこちらを見つめている、水色のワンピースを着た少女の姿が写った。


「私達は、研究所の方に泊まらせていただきます。いつでもお迎えにまいりますので連絡をしてください」
パイロットの声が聞こえてくる。
「ああ、ありがとう。 皆によろしくな」宇門は礼を言った。

「それからこれを。総司令からです。 美しいお嬢さんに歓迎のあいさつをということです」

機は宇門を地面に降ろして、上昇を開始した。
宇門はそれを見送って、そして少女の方を振りむいた。


少女が、かけよってくる。  髪がふわりと風になびいた……

宇門の2,3歩手前まで来て、そして立ち止まった。

美しい少女だった。すらりとして、少し背が高く、父と同じ色の髪がやさしげに肩にかかっていた。

そして、その目は。 それは父の目とそっくりの美しい蒼の色をたたえていた。

少女はにこっと笑った。

「おじいさま?」

おお、その笑い方は…   笑うとさらに雰囲気が父にそっくりになった。
よく、似ている…  宇門の胸に震えが走った……

「セシリアかい? 」

宇門は近づき、その顔にそっと手をふれた。

「よく… 本当に、よくきてくれたね…… 」

そうしてそっと抱きしめる。

「おじいさま…… 」
しばらくして、宇門は言った。

「さて、では中に入ろうか。久しぶりの我が家だな」 にっこりしていう。

少女も笑いながら、一緒についていく。

これを、もらってきたよ。と宇門は地面から特大のバスケットを持ち上げて運んだ。

「総司令からでね。 美しいお嬢さんに食べてほしいそうだ。
地球の食事は大丈夫なんだろう? 」

ウインクしながらいう。

少女も、ふふっ と笑いながら答える。

「ええ… 大丈夫よ。あら、おいしそうなごちそう……

フリードでも結構地球風の食事を食べてたのよ。
お父さまやマリアおば様が懐かしがって喜ぶものだから、特にね。

でも、マリアおば様がたまに作ったりするのだけど、あれはいただけなかったわ…… 」


「…………私も大介も、マリアちゃんに料理は教えられなかったからねえ。

気が利いているだろう。ワインまである。だけどジュースの方がよかったな。
きみはまだ未成年だから飲めないしね… 」

「美味しそうだわ。 私、少しだけ飲みたいな…  わあ、きれいなお花まで入っている。
総司令って、きっと素敵なおじ様ね」

宇門は普段はにが虫をかみつぶしたような顔で、にこりともせず、皆から恐れられているバルディナス総司令の顔を思い出した。

「ふ〜〜〜む、あいつにこんな気の効いたところがあるとは意外だったな。
小技が効いてるじゃないか…… 」 

宇門はひとりごちたのだった。


―――5―――

日は傾きかけており、最後のやさしい残像を残そうとしていた・・・

とりあえず先に食事をしようということになった。

2人仲良くテーブルをセットして花を飾り、せっかくだからと、そなえつけのランプをつけ、ろうそくを灯し、雰囲気を出した。
ご馳走をならべ、ワインをあけ、セシリアのグラスには、少しだけワインをそそいだ。

秋の気配を漂わせ、少し肌寒く感じられる高原は、窓を開け放つと涼やかな風を送り込んできた。

‘乾杯’ 2人並んで丸いテーブルにつき、カチンとグラスを合わせる。
セシリアの姿をみながら飲むワインは、極上の味がした。

「みんな元気でいるのかい? 」宇門は聞いてみる…

「ええ、お父さまもおば様もとても元気よ… 」セシリアは答える。

「フリードも順調に復興していってるわ。
まだまだ苦しいことは多いのだけど、でも、みんな希望があるから…… 」 

「ようやっと、生活を楽しめるところまできたって。
私は王宮で暮らしていたから、生活の苦しさまでは本当はわからないんだけど…
もっとも、皆にいわせると、うちほど貧乏暮らししている王宮ってないそうなんだけど…」

「あはははは、そうか……… 貧乏暮らしなのか」 宇門は笑い出した。

「笑い事じゃあないわ、おじいさまったら…  私だって、ドレスもろくろく買ってもらえなかったし…
つきあいだってあるのに…
はずかしかったんだから… 」

セシリアは、ちょっと唇をとがらせた。

「でも仕方がないのよ」 少ししょんぼりとしてセシリアは言う。

「フリードは人口がものすごく少なくなってしまったでしょう?
でも防衛費だけは、よそと同じにしとかないといけないのだもの。
ううん、最初は何もなかったから他の星よりもたくさんいっていたの…

一通りの防衛ラインを敷くまでがすごく大変だったってきいてるわ。
それがないと、安心して皆がくらせないのですもの。
ヴェガ本体は滅んだけど、すべてが滅んだわけではなかったから…
グレンはあるけれど、お父さまだけで戦うというわけにもいかないことだってあったし…

何とか私たちが暮らしているところが、平和をとりもどすまでいろいろあったの。
ようやっと安心してくらせるようになったのは、ここ10年くらいなのよ」


「そうなのかい。まだこちらに来れていた頃も、大介は心配かけまいとつらいことは言おうとしなかったからなあ」

宇門は少しため息をついた。
「もっと愚痴をこぼしてくれてもよかったんだがね」

「お父さまって、やさしそうな顔してるけど強情我慢なんだって、マリアおば様がいってたわ」

「なるほどね。そのとおりだね」 宇門は笑った。

宇門はセシリアの語る話をとても楽しそうに聴いていた。
それは… 自分でもそのようなものがあるとは気づいていなかった、宇門の心の隙間を埋め、渇きを癒したのだった。

そして夢のようなやさしい時間はまたたくまに過ぎていった。


―――6―――

食事が終わって、2人は静かに高原を見ていた。

2人とも満ち足りた気持ちで、沈黙が心地よかった。9月の風がさわやかに吹き抜けていく。


「もっとワイン飲みたいな…」 セシリアが恐ろしいことを言う。

「セシリアはいくつになるんだい? まだ15にはいってないだろう。
その年で酒が好きになってどうするんだい」  宇門はおかしそうに言った。

「この前13になったわ。もう大人よ。
少しくらい大丈夫だと思うんだけど… 」

セシリアはそれがくせなのか、ちょっと唇をとがらせた。

「13で大人はおそれいるね。そんなに早く年を取ってどうするんだい?」

「だって、マリアおば様なんか14でドリルスペイザーに乗って大活躍してたんでしょう?
私だって…」

セシリアは、若いからなのか、かなり向こう見ずなところもあるようだった。
『マリアちゃんの血もひいてるからな』 
宇門はそっと、セシリアの顔を見やりながら思った。

「まあ、マリアちゃんの場合はね…」 思い出すように宇門はつぶやいた。

「本当はそんなことはさせたくなかったんだよ… 
それに、ドリルスペイザーとワインでは少し話が違いすぎるように思うがね」

宇門は微笑みながらいった。

「ばれた?… 」セシリアはペロッと舌を出した。 「だってこのワインすごくおいしいんだもの…」


・・・・・後少しだけだよ・・・  宇門は甘やかすようにいって少しだけワインを入れた。

そして残りを全部自分のグラスにあけた。

「あっ、おじいさま、ずるいわ。 それに飲みすぎると体に悪いわよ… 」

「大人はいいんだよ。それに私は老い先短いのかもしれないんだからね。
こんな気持ちのよい晩は少し飲みすごしてもいいんだよ」

セシリアは宇門の顔を見た。そして本当にここに来てよかったと、あらためて思ったのだった。

「お父さまからのメッセージがあるのよ。今見る?」

宇門は少し考えて、そして頭をふった。

「いや、やめておこう……  明日見るよ。
今見ると、眠れなくなりそうだからね。

今日はいい夢が見れそうだから、このまま眠りたいね…」

「そうね… いい夜だわ…」

空を飾る星がやさしくまたたいていた…


―――7−1―――

さわやかな朝だった。

宇門源蔵はあまり覚えのない幸せ心持ちで眼をさまし、靄のかかった頭でしばらくじっとしていた。
何かとてもよい夢を見た…  そんな気がして珍しく起きるのがもったいなかったのだ。

それからあたりを見まわした。
何かがいつもとは違う気がしたのだ。
そしてそこが見慣れた基地の宿舎ではなく、めったに帰らない自宅であることに気づいた。

宇門ははっきりと目覚めた。

そうだ、帰ってきていたのだった……

宇門はつぶやく。

ああ、そうだ、あの子だ…  セシリア……

あれは本当にあった事なのだろうか。 あの夢のようだった楽しい一夜は……
半ば疑いながら起き上がって窓を開け、新鮮な空気を入れた。
見あげる9月の空は、どこまでも澄み、深くすい込まれそうな青い色をしていた。


一通り身じまいを終えてタオルで顔を拭いていると、そこにコンコンと戸をたたく音がした。
「はい?」

「おじいさま、お目覚め? 入ってもいい?」

どうやら、夢ではなかったようだ…

セシリアが入ってきた。いかにも若い子らしくいきいきとして、そして朝露のように美しかった。

宇門は少し眼を見張った。
彼女はちょっとはにかんだ様子で、宇門のそばまでやってきた。

「朝食を通いの人が持ってきてくれてたの。 おじいさま、手配してくれてたのね。
早く一緒にたべましょう。 私、お腹すいちゃった」

宇門は笑みをこぼした。
「はは…… 少し寝過ごしてしまったな。 待ってくれ、すぐに着替えるよ」

「そのままのかっこでも大丈夫よ…」

「こらこら、きれいなレディの前だからね。少しはかっこをつけさせておくれ」

セシリアはくすっと笑って、下で待っているわ、といって先に降りていった。

宇門はパリッとしたカジュアルな服に身を包むと、朝食の席についた。

「おじいさま、素敵よ…」フフフ、とセシリアは笑った。

セシリアと一緒だと、ただの朝食も華やいで豊かに見えた。

朝食を食べ終え、2人とも満足しながらセシリアが入れたコーヒーを飲んでいた。

そうして、宇門はセシリアに事情を聞くことにした。

セシリアは飲んでいたコーヒーカップを、静かに下に置いた。
彼女は話を始め、それを要約すると次のような事のようだった。


銀河系と、フリードのあるヴェガ星系を含むアンドロメダ銀河との間の往来は、広大な暗黒の宇宙を超長距離ワープの繰り返しで渡らなければならなかった。

その暗黒の宇宙空間に障害が起きていることは、以前宇門は大介から聞いていたのだったが。

いわばブラックホールを薄く広くしたよう星域が、銀河同士の間の暗黒の宇宙空間に急激に広がったのだという。
それはブラックゾーンと呼ばれていた。
暗黒の宇宙の巨大な暴風雨、台風ともいうべき存在であるらしい。
広大な宇宙では必ずしもとても珍しいというものではないのだが、今回のそれは非常に困ったところに発生しており、規模も自然に収束するのを待つと数百年の単位を要するであろうと思われたのだ。

暗黒の宇宙を渡るワープ航路は、ポイントとなる宙域同士が厳しい条件をクリアして結ばれている。
メインの航路は何本もあり、すべて閉ざされるような事態は、これまでにはなかったことだった。
だが今回、メイン航路はすべてブラックゾーンの影響下にあり、それを使うことは事実上不可能だった。
銀河系に関わりのある星にとって、それは非常に憂慮すべき事態であった。


―――7−2―――

ブラックゾーンはゆるやかに、しかし確実に勢力を増していた。
その広がりは特に銀河系に向けて顕著だった。
成長の最終的な形態についてはさらに研究が進められ、時間はかかったが予測がついたのだった。
だがその予測は、アンドロメダの人類を蒼白にさせた。

このブラックゾーンは、通常のものと違い、ある成長のポイントを超えると、その成長が加速度的に拡大していくという結果が出たのだ。
1〜2世紀のうちには銀河系とアンドロメダに致命傷を与えかねない、最悪には銀河系の消滅という事態すら招きかねない、
今までにない非常にたちの悪い巨大なものになるであろうと判明したのだった。

そしてその急激な拡大期に移るターニングポイントは、早ければ数年のうちにくるという。

なんとしても、それだけは阻止せねばならなかった。

幸いにも、ヴェガとの闘いの傷跡はかなり癒えてきていた。
形は違え、ヴェガに制圧あるいはほとんど滅亡寸前にまで追い込まれた、同じ苦しみを背負う星同士であり、共通する危機に対しては協力する態勢が整ってきていた。
かなり余力を残していたルビー星などを中心に、プロジェクトが立ち上げられた。
時間はあまり残されていなかったが、必死の共同研究の結果、幸いにも何とか方策がみつかったのだった。

ブラックゾーンの消滅は無理だが、緩やかな拡大から急激な拡大への移行をを阻止することは、何とか可能なようだった。
そうすれば、通常のブラックゾーンのようにゆるやかに拡大し、巨大化はおこらず数世紀のうちには消滅していくだろう。
うまくすれば、その勢いを止めあるいはゆるやかな縮小の方向に誘導する事が可能だという。


だが、そのためにどうしても必要なものがブラックゾーンの正確で詳細な情報だった。
特に活動の激しい銀河系の側の情報が必要不可欠だったのだ。

どうしても銀河系の側に渡らなければならない。
だがメイン航路が閉ざされている今、残されている方法はただ1つしかなかった。


それは、転送、という方法であった。 
ヴェガ大王軍が地球近くに現れたのはこの方法による。

だが現在、それはヴェガ星の爆発あるいは滅亡により、以前とは異なり非常に困難な方法になっており、危険と莫大な費用と大変な準備が必要であった。

それは不可能ではないにしても、通常に使える手段ではなかったのだ。
星々が結束して事にあたっても、その準備には約1年を要した。
その間の情報の空白はなんとしても避けたいところだったが、埋めることは不可能なことのように思われた。


「それがね… 」

「方法があったのよ… それもフリードに」そう言って、セシリアはちょっとため息をついた。


―――7−3―――

「実はね、迂回路がみつかったのよ」

セシリアの説明によると、危険であまり調査が行われていなかった星域が、ブラックゾーンにかからない航路を見つけるために、ずっと探査されてきていたのだという。

犠牲も随分出しながら、それでも見込みがありそうなルートが、1つだけみつかった。
だがそのルートには、大きな欠陥があった。
狭すぎるのだ。

通常の超長距離ワープのできる大きさの船では、渡れなかったのだ。
技術のブレークスルーがあれば、将来的には可能性があるが、そのままでは役に立ちそうにはなかった。
「だけどね。 そこが通れるほど小さくて、丈夫でワープができる船がただ1つだけあるのよ…」

 
宇門は驚いて言った。
「まさかそれは…」


「そうなの。 それ私の船なのよ」セシリアは少し困ったように言った。

「私の船って、信じられないくらいに頑丈なのよ。超長距離のワープに耐えられるほどに。

私が生まれたときに、お祝いに私のために作られた船なのだけど、最初はごく普通の小さな船の予定だったのよ」

そしてセシリアは彼女の愛船『シロ』の生い立ちを話し始めたのだった。 

※おまけの話 1


―――7−4―――

セシリアは続ける。

「えーーと…… どこまで話したかしら…

そうそう、私の船の話ね。 

普段に使うのには何の問題もないわ。性能のいい頑丈な船、という程度のものよ。
でも迂回路が見つかって、この船なら通れるかもしれないというので、超長距離用のワープをつけて調整している最中だったの。
それが…… 」

セシリアは唇をかんだ。
少し疲れたのか、ここで休んで冷たい水を飲んだ。
ふうっと息をついで、眼をきっとあげた…

そういったなにげない仕草が父によく似ていて、宇門はつい微笑んでしまうのだった…


フリードでも、このことについては内密に議論がつくされた。
安全性も確認されていないのに無茶だ、という意見もあった。

だがリスクがあるとはいえ、おそらくは安全にそして費用もほとんどかからずに行ける船がフリードにあるのに、なにもしないわけにはいかない、という意見が大勢をしめた。

機材を放出し、変化の激しいところからの最低限の情報を取って蓄積するだけだなら、
小さい船のコンピュータでも間に合うようだった。

セシリアが言う。

「必要なことは船のブレインが自動でしてくれるの。だけど、誰かが行く必要があったのよ」

「ただね、私の船はもともと設計されたとき、私の専用機としてつくられたものだったから、グレンと同じで乗れるのが王家の人間だけに限定されてしまっているのよ。

それに船が小さいからブレインも小型なの。
ワープをする時はリスクが跳ね上がるものだから、運べる人間は1人が限界なの。
乗れる人は皆、お父さま、おば様を始めフリードにとって失うわけにはいかない人ばかり」


「だからね… 私が行くって言ったの。

私は第三位王位継承者だから、たとえ何かあったとしても、フリードにとっては大事にはならずにすむわ。
それに私の年になると、王族はだいたい他の星に留学することになっているから
いいわ… って思ったのよ」

セシリアはちょっと唇をかんで言葉を切った。眼をふせ少し言葉がとぎれる。

「本当はお兄さま方が、それぞれ自分が行くっておっしゃっていたのだけれど、それはフリードにとってもよくないしお兄さま方もかわいそうだわ…
長い間、連絡もとれないのに、こちらにこさせることはとてもできない…」


※ お兄さま方というのはマリアの2人の息子のことです。セシリアとはいとこにあたります。
  彼らがフリード第一、第二、王位継承者です。


宇門は立ち上がってセシリアの肩に手を置いた。
セシリアはゆるく頭を振った。
そして宇門を見あげた。

「でも、ただそれだけのために地球に来たわけではないのよ。
私、地球にものすごく興味があったの…
それにね… 私、おじいさまにとても会ってみたかった…」

思わず宇門はにっこり笑ってしまったが、少し顔を引き締めた。
そしてセシリアに言った。
「セシリアの船ならいつでも行き来できる、というわけでもなさそうだね。
何が問題なのだね」

「さすが、おじいさま。どうしてわかるの?」

「君が、お兄さん達がこちらに来ても、連絡が取れなくなるといったからだよ。
船が行き来できるのなら、連絡くらい取れるだろう?」

セシリアはうなずいた。

「そのとおりよ。
実はあの迂回路は、もうじき通れなくなってしまうの。
周期があって、私の船でも通れない狭さになってしまうのよ。

もう一度安全に通れる大きさになるのは…たぶん、5年後なのよ。
だから、それまでは……  それに…その時に確実に通れるという保証はないの」

セシリアは、うつむいてしまった。 じっと何かをこらえるように、肩がふるえた。
少し涙がこぼれそうになる。

「セシリア…… 」宇門は胸が一杯になって、セシリアを抱き寄せた。

セシリアは頭を宇門の胸にうずめ、しばらくそのままでいた…

「ごめんなさい、もう大丈夫よ。 今からもうホームシックね、恥ずかしいわ。
自分が決めたことなのにね。
お父さまやおば様の昔のことを思ったら、これくらい何でもないことなのに…」

「無理もない。きみはまだ13歳なのだ。 
あまり何でも、1人で背負い込みすぎたり我慢しすぎるのはよくない…」

「そういえば、君のお父さんもそうだったがね」宇門は笑った。

セシリアの顔にも笑顔がもどってきた。

「ふふ、ほんとうにそうだわ… 
でもお父さまったら、自分のことは棚にあげて、おじいさまと同じようなこと言ってたわ…」

「それはずるいな… 」

2人は顔を見合わせて笑った。


「でもね…

確かに皆にあえないのは寂しいのだけれど、ここで生活するのはすごく楽しみでもあるのよ。
おじいさまもいてくれるし、セシリアはとてもうれしいわ…」


―――8―――

(Reeさん&fuyuko)

宇門はセシリアから小さな小箱を受け取った。
「父からのメッセージよ」
その言葉に宇門は少し眼を瞠った。
もう二度と会うことは叶わないと思っていた。諦めていた。だがその姿を見ることが出来るのだと思うと、宇門は思わず手でその小箱を握りしめた。
「では早速……」
宇門はセシリアに微笑むと地下室へ向かった。
「上手く読み込めると良いんだが……」

宇門は小箱から、小さな記憶装置を取り出し解析システムに挿入する。暫くシステムと格闘していたが、やがてにっこりと微笑んだ。
「これなら何とかなりそうだよ」
「良かったわ。見れなかったらどうしようと思っていたの……流石おじいさまね。うふふ」
セシリアは口元に手を当ててウインクして笑った。
「今、地球のシステムで読み込めるようにデータを変換中だ。これで何とか映像が見れるよ」

宇門は待ち時間の間、スクリーンの前に椅子を二つ並べた。
ピン!
システムが変換完了の合図を告げた。宇門はその音が殊の外大きく聞こえた。


(Reeさん)

はやる気持ちを抑えつつ、宇門はキーボードに幾つかのコマンドを打ち込んだ。
「さぁセシリア、お座り。始まるよ。ふふふ」
宇門はスクリーンに映る映像を眺めた。しばらく黒一色の画像が流れたが、急にカラフルな色に変わった。
「まるで昔見た映画の様だね。ふふ」
宇門はともすればこみ上げそうな気持ちを必至で抑えるように言葉を発し、小さなキーボードを持ってセシリアの隣の椅子に座った。
スクリーンには絵に描いたような綺麗な風景が映し出された。
「おじいさま、停めて!」
「え?あぁ」
セシリアの声に宇門は慌ててキーボードを打った。映像が停止する。

「おじいさま、フリード星よ」
「ほぉ、中々美しい星だね。緑豊かな星なのだね」
「まだ木も生えていないところが有るの。それでも此処はお父さまが少しでも植物を増やしたいからって……」
「大介は自然が大好きだったからね。地球に良く似ているよ」
「うふ、その言葉、お父さまが聞いたらお喜びになるわ」
「え?」
「だってこの場所、しらかばの森と名付けられているのよ」
「え?そうなのかね」
「此処はお父さまが一番好きな場所なの。時間が有れば何時も眺めているわ」
「……」
セシリアの言葉に宇門は胸が熱くなった。大介は忘れていなかったのだ。
いや、忘れるどころか離れていても今でも地球をいや、このしらかばの大地を愛しているのだ。
セシリアはスクリーンを見つめて微動だにしない宇門の変わりにキーボードを打った。

「おじいさま、まだ始まったばかりよ、ふふふ」
セシリアの笑顔が大介の笑顔と重なる。宇門はゆっくりと微笑んだ。
「ほら、これが王宮……フリード星のシンボルね。此処でお父さまは仕事しているの」
「凄く立派な建造物だな」
「此処でフリードの国政を司ってるの」
「ほぉ……」
映像は建物の中を映し出しながら進んでいった。
暫く眺めていると、綺麗に手入れされた庭園が映し出された。そこで映像が止まった。セシリアがキーボードを打ち込んだのだ。
「此処が王宮のパティオ。綺麗でしょう」
「あぁ、手入れが良く行き届いているね。ふふふ」
「庭師は父よ」
「え?王自らかね?」
「そうなのよ。お父さまったら休憩時間には此処でハサミを持って手入れしているのよ。従事の人達にも呆れられてるわ」
「ははは!大介らしいね」
「まぁでもお仕事が忙しくなると手をいれられないから、その時は一番信頼している庭師にお願いしているわ」
宇門は笑っていた。

映像は再び動き始めた。

映像の奥に人影が見えた。その人影は段々大きくなって映し出された。
男は撮影されているのに気付かないのか一生懸命庭木の手入れをしていた。
「あ……」
宇門は一言声を上げた。
『お父さま〜』
映像からセシリアの声が聞こえた。
男がゆっくりと振り返る。その顔には懐かしい笑顔が見えた。
「―― 大介」
宇門は瞬きも忘れて小さい声で呟いた。
『セシリア、もしかして私を撮影しているのかい?』
懐かしい声だった。以前よりは低音になっていたが、それでもその抑揚は以前と変わりなかった。
『うふふ、おじいさまにお父さまの本当の姿をお見せしたいと思って』
『え? ば・馬鹿!こんな姿を見たら、父さんががっかりするだろう!』
『いいじゃない。堅苦しい格好のお父さまより、そうやって庭いじりしているお父さまの方がセシリアは大好きよ。うふふ』
『こら!親をからかうもんじゃ無いぞ!』
大介は腰に手を当ててセシリアに意見した。
映像はそこで一度途切れた。
「あっ……」
宇門は思わず声を上げた。もっともっと大介の姿を見ていたかったのだ。その声にセシリアは映像を停止した。
「大介……元気そうだな……相変わらずお前は……」
宇門はその後の言葉が出なかった。セシリアにハンカチを渡されて漸く自分が涙を流していることに気付いた。
宇門は少し照れながら微笑み、ハンカチを受け取った。

「……大介は、昔のままだね。少し落ち着きが出たが、それでもあの笑顔……昔のままだ。あの優しい眼が当時もとても愛しいと思えたよ」
「お父さまが、こんな事をしているとおじいさまに笑われるから、消してくれって言ったのよ。でも言う事聞いてあげなかったの。うふふ」

そしてセシリアは再生のスイッチを入れた。
※おまけの話 2


(fuyuko)

一通りのにぎやかな紹介が終わった。
大介やマリアの懐かしい姿は、別れた時とほとんど変わってはいなかった。
楽しそうな2人の家族やまわりの人々の様子に、宇門は胸が暖かくなっていた。

そうしてしばらく白い画面が続き、そして切り替わった。

さきほどのにぎやかな映像とは打って変わって、そこには静かにたたずむ1人の男がいた。
スクリーンの男が口を開いた。
深く優しい、そして何より懐かしい声だった。


「父さん・・・ 元気ですか。

とても長い間連絡が取れなくて心配だったのですが、甲児くんもいてくれるので、
余分な心配はしないように気をつけてました。
僕の悪いくせですのでね。

ただ、父さんが寂しい思いをしているのではないのかと、それだけが気がかりだったのです。
ブラックゾーンのせいで地球と切り離されてしまったのは、僕とマリアにとって、
何といっても悔しく残念で寂しい事でした。
2度と地球に行けない、とは思いたくない。
いつかはまた、父さんや甲児くん達に会える日がきっとくる。
そう信じてきました」

「僕の代わりにセスがそちらへ行きます。
父さんにはまた負担をかけてしまいますが、セシリアを、セスをよろしくお願いします。

僕によく似ているのですが、少しマリアの血も引いているようで、今回のように思い切ったことをしでかすことがあるので、また父さんに苦労をかけてしまいそうな気がするのですが」
此処で、聴いていたセシリアはちょっと不満そうに鼻をならすようだった。

「万が一何かあった時は… その時は…… 覚悟していますから。
地球に迷惑をかけるつもりはありません。
セシリアもフリード王室の一員ですから…」


デュークは、言葉を止めた。そうして暫く黙っていた。
それから彼は少し悲しそうに微笑んだ。

「もう、一度だけでいい。  
僕は、父さんに会いたい…  会って、顔を見たい、話がしたい…

いつか、必ず地球に行きます。
だから、それまで父さん、どうか元気でいて下さい」

映像が終わった。

「これで終わりなの。もっとたくさん取りたかったのだけれど、これが精一杯だったの」
セシリアが残念そうに言った。

宇門はじっと何も映らなくなったスクリーンを見ていた。
彼は思い出していたのだ。

遠い空の向こう・・ 
この空の向こうに、と思いながら見上げていた空の色のことを。
なぜかすいこまれそうな深い蒼穹の空が広がる時、宇門はつい眼がそちらを向き、ふと胸が苦しくなっていたのだった。

じっと動かない彼の肩を、セシリアがそっと後ろから抱いた。
「おじいさま、お父さまに会いたいのね」
少し悲しそうにつぶやいた。

「ごめんなさい… お父さまを連れてこれなくて… 」

「ああっ…………… 」
宇門は、眼を瞑り、じっと胸にこみ上げてくるものを耐えていた。
だがしばらくして、彼は眼を開けセシリアを見た。
セシリアの頭を愛しそうになで、そうして彼はにっこり笑った。

「心配をかけたね、セシリア。 もう、大丈夫だよ。 
年をとると涙もろくなっていかんな。
私にはこれで充分だよ。大介が元気で幸せに暮らしているところを見ることができたのだから。

それに… おまえが、ここにいてくれる。 望外の幸せだよ」

「おじいさま…」
セシリアは宇門の胸に飛び込んだのだった。


こうして、SC特殊支援潜行チーム筆頭 宇門源蔵博士と、フリード第一王女セシリア・フリードの愉快で破天候な共同生活が、始まることとなったのだった。


―――終―――




おまけの話 1

「私が生まれたときに、お祝いに私のために作られた船なのだけど、最初はごく普通の小さな船の予定だったのよ」
セシリアは話し始めた。

「それがたまたま、うちの天才科学者が参加していて、偶然手に入った鉱石を実験的に使いたがったの。
それを使うと金属の強度が増すって、実験結果が出てたから……
いい人なんだけれど実験のこととなるととてもmadな科学者で、手がつけられなくなるの。
でもフリードにすごく貢献してくれているものだから、お父さまを始め皆押し切られてしまったのよ…
まあ、害はないだろうってことで…」

「それでね、くわしいことは機密ってほどでもないけど、とにかく恐ろしく丈夫な合金が作られたのだって聞いてる…
でもやたら彼のインスピレーションでやったことが多かったから、少し似たものは作れても、2度と同じものは作れないのですって・・」


セシリアの顔が、話しているうちに何となく紅潮してきた。
話を切って、しばらく黙っていたのだが、思いきったように宇門に言った。

「……………………………。
少し…ひどい話だと思わない?
うまくいったからいいようなものの、私専用の船のはずなのに失敗したらどうするつもりだったのかしら。
小さい王女様用だから、万一だめだったらあきらめてもらうか… とか皆どこかで思ってたのよ。絶対。
失礼しちゃう…

お兄さま方の時とは、なんだか扱われ方が違うんだから… 」

セシリアは、ややむっとした感じで、話がそれていったのだった。

思わず宇門は笑ってしまいそうになったが、セシリアの顔を見て思いとどまった。

「まあまあ… お兄さんの時はフリードも失敗できることが許されるだけの余裕がなかったのだろう。

君の時は、少し余裕が出来てたんだよ。失敗してもなんとか取り繕えるだけのね。

だから、良いと思うことがあれば、できれば取り入れてみたかったのだろう。

私もこんな仕事をしているからね。現場の気持ちはよくわかるよ」


「そうなの? そうだったのかしら…   まあ、わたし、皆にすまなかったわ。

ちょっぴりだけど、ひがんでたから…」

「ははは、ひがむってほどのことじゃないよ。ちょっとひっかかっていただけだろう。
大丈夫。セシリアはいい子だよ」

宇門はセシリアの顔を見てにっこりした。

セシリアは、うれしそうにはにかんだ。

「おじいさまって、口もうまいのね。若い時はもててたでしょ?」

「失礼だな。今だってもててるよ。すごく若い子にね」

「そうね…     大好きだわ。おじいさま…」

笑い声が広がった。
2人はとてもよいコンビで、一緒にいると、深刻な話でもつい笑い声がこぼれてしまうのだった。
おまけの話 2
(Reeさん脚本 fuyukoバージョン)

映像は違う角度から大介を撮影していた。大介に怒られた所為だろう、かなり離れたところからの撮影だった。

『へ・い・か!』
女性の声が聞こえた。だが大介は聞こえ無いのか、せっせと庭木を弄っていた。
『あ・な・た!』

「お母さまよ」
セシリアは悪戯っぽく笑った。

『あぁ、やあ……呼んだかい?』
『もうっ!何度もお呼びしましたわ。あなたって何時も庭の手入れをし出すと夢中になるのですもの。知らないわ』
『やあ、悪い……』
『少しは王としての風格をお持ちになって下さらないと!』
女性は腰に手を当てて、少々いばった格好で言った。

『そう言えって、誰に言われたのだい?』

女性はうっと詰まって顔を紅くさせたようだった。
『知りませんわ。もう、あなったっていじわるなんだから!』

「はははは、2人ともとても仲がよい様子じゃないか」
「娘としては実は見ていられなかったりするのよ、おじいさま」


女性は少し意地悪そうな口調になって、大介に向かって話しかけていた。
『秘書のサラが探しておりましたわよ。もうすぐ会議なのにあなたが来ないって……』

『あっ、そうだった! しまった……』
大介は血相を変えて走り出していった。
『あっ、あなた……』
女性は振り返って大介を引き留めた。漸く女性の顔が見えた。余りの綺麗さに宇門は息を飲んだ。
「お母さま、綺麗でしょう」
「あぁ……凄い美人だね」

『もう……剪定バサミを持ったままで走っていってしまったわ。みんなに笑われたって知らないんだから……』
女性は腰に手を当てて呆れた顔をしていた。
「ははは!あの口調、セシリアと似ているねぇ、流石親子だな」
「まぁおじいさま、私はあんな言い方してないわよ」
セシリアは腰に手を当てて膨れっ面をして見せた。
「ほら、やっぱり似てる。ふふふ」
宇門は大笑いしていた。こんなに笑ったのは何年ぶりだろうか、宇門は笑いながら涙が溢れた。


『皆、準備はいいかい?おじいさまにご挨拶するんだからね』
青年の声がする。
「じゃあ、まずは叔父上から」

「此処からはアレクお兄さまが撮影しているのよ」セシリアが解説を入れる。
「アレク王子というのは、マリアちゃんの上の子なのだね」
「そうよ上がアレクお兄さま。下がドメルトお兄さま」


「ああ、ありがとう、アレク。ええと、こほん、まずは私の大事な妻、   」

『お父さま、始めまして。  です。その節は主人がお世話になり有難うございました』
女性は先程とは打って変わって、しとやかに優しい恥ずかしげな微笑を浮かべた。

『伯母上、いつもとはえらく違うのじゃありませんか』
すかさずアレク王子の声がとぶ。
『まっ、アレク王子、どこがどう違うとおっしゃいますの? はっきりおっしゃって』
唯ではおかないというその語調に、アレク王子は撤退したようだった。
周辺からくすくすと笑う声がもれてくる。

『おじいちゃま』これまた人形のように素晴らしく愛らしい、小さな少女がちょこちょこと出てきた。

『ええと、おじいちゃま。はじ…はじめまして。私もお姉ちゃまみたい、そっちいくのよ。絶対待っててね』
顔を赤くして舌足らずになりながらも、熱意を込めて訴えた。

宇門は涙を零しながらも笑顔で頷いていた。
(蛇足)
  fuyuko世界におきましては、フリードは変則的に共同統治となっております。つまりフリード王デュークとフリード女王マリアとが権限を等分に持っています。
  これに内政面では、フリード議会が権限を分かち持っています。
  デュークは主に内政面と金融面を、マリアは主に外交面と経済面を担当しています。


  この体制をとると、急激に復興、問題が山づみ、という局面では非常に有効なような気がしたのですね・・
  共同統治は2つの派閥ができるわけで、通常ではとても難しいのではないかと思われます。  

  前提としては2人の息がピッタリ合うかどうかということなのですが、この2人ならこなせるのではないかという気がしたので・・

  それに妄想を展開する上で、これはいろいろ魅力的な展開が見込めて楽しかったりするのです(これ大事 笑)




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                            ばな〜っす

・UFOロボ グレンダイザー ファンフィクション


『遠い空へ』

作:fuyuko様